大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和31年(行)84号 判決

原告 陳明峯

被告 東京国税局長

訴訟代理人 広木重喜 外六名

主文

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

当事者双方の申立及び主張は別紙のとおりである。

立証〈省略〉

理由

一、原告の主張第一、第二項の各事実は当事者間に争がない。

二、そこで被告の本件審査決定の適否につき判断する。

(一)  登録税法第十九条の六所定の課税標準の価格の申告の性質登録税における課税標準の価格及びその租税債務の具体的内容は原則として(私人又は税務官庁の確認行為をまたず)法律の規定により当然確定すると解すべきであるが、不動産に関する登記の場合における不動産の価格のように課税標準の価格が外見上明白でない場合には何らかの確認行為がなければこれを明確に確定しえないと考えられるから、登録税法第十九条の六所定の登記申請書のなす課税標準価格の申告は、登記官吏の認定告知処分を解除条件として課税標準価格を確定せしめる確認行為であり、また同条所定の認定告知処分は、登記官吏が登録税法に基き賦与された権限に基き行政機関の長として(国税徴収法第三十一条の二第一項但書参照)一方的に課税標準価格を確定せしめる確認行為と解するのが相当である。すなわち、登録税の納付に際しその課税標準たる不動産の価格は登記官吏の認定告知処分がない限り登記申請者の申告により確定すると解すべきである。

(二)  嘱託による登記の場合における登録税法第十九条の六所定の申請者の意義

不動産に関する登記を受けるときは登録税を納付すべきもので、登録税法第二条第一項一号ないし十六号、第三条の二、第十六条の登記については登記申請書に課税標準の価格を記載すべきものであるから、登記所に対し不動産の登記を申請するときは、一通の申請書により登記申請手続と登録税の申告納付手続とが併行して行われると解すべきであるが、嘱託による登記の場合には登記嘱託者と登録税の負担者が異るのでこの関係を如何に解すべきかは問題である。しかし登録税法第十九条の六によれば課税標準価格の申告は登記申請者が行うべきものとされており、嘱託による登記の手続には申請による登記手続が準用されるから、嘱託庁は申請による登記手続における申請人の地位に相当する地位にあるとみられ、登記の嘱託が私人の申立に基きなされる場合でも(職権でなされる場合に対し)、嘱託者として直接登記所に関係するのは嘱託庁であつて、私人は嘱託庁に対し嘱託行為を求める地位にあるだけで、直接登記所に対し申請人の地位に立つわけではないし、登録税の納付については、その正当な手続としては課税標準価格の申告は嘱託書にこれを記載して行うべきであり(不動産登記法第二十五条第二項、同法施行規則第三十八条第一項)、この記載は嘱託庁がなすべきであつて(具体的な価格は登録税を納むべき者の意見によるとしても、嘱託書への記載権限は嘱託庁が有すると解せられる)登録税を納めるべき者は嘱託庁に相当の印紙又は現金の領収書を提出し、嘱託庁においてその印紙を貼用し又はその証書を添付して嘱託書を登記所に送付すべきものとされているのであるから、登録税を負担する者は嘱託庁を介して間接に登記所に関係するにすぎず、登記所としては嘱託庁により作成された嘱託書の記載によつて申告価格を認識せざるをえないのであるから、登録税法第十九条の六所定の課税標準の申告権者たる登記申請者とは嘱託による登記の場合には嘱託庁を指すものと解するのが相当である。もつとも嘱託庁は徴税機関ではなく、また実際に登録税を負担する者でもないのであるから、嘱託庁が課税標準価格を嘱託書に記載するにあたつては登録税を納付すべき者の意見をききこれによつて記載するのが相当であると考えられるが、登録税を納付すべき者は嘱託庁を介して間接に登記所に関係するにすぎないのであるから、嘱託庁を介せずに直接登記所に課税標準価格を申告する権限はなく、登記所も嘱託書記載の課税標準価格により申告価格を認定すべきものと解せられるから、登録税を負担する者が嘱託書記載の課税標準価格に不服な場合には嘱託庁に対し異議を申立てこれを訂正してもらうべきであつて、直接登記所に対し嘱託書の課税標準価格の記載について異議を申立てまたはこれと異る価格を申告することは許されないと解すべきである。

(三)  本件における登記官吏の認定告知処分の有無

ところで前記のように嘱託による登記の場合においても登録税に関する課税標準価格の申告は嘱託庁より嘱託書によつて登記所に対しなさるべきであるが、本件登記嘱託書には、嘱託庁たる東京地方裁判所により、不動産の価格として五百九十八万百円と記載されていたことは当事者間に争がないから、嘱託庁たる東京地方裁判所は、本件登記嘱託に際し納付すべき登録税の課税標準価格として、右不動産の価格を申告したものというべきであつて、右価格に基いて登録税を納付せしめたこと当事者間に争のない本件においては、登記官吏としては、登録税法第十九条の六所定の認定告知処分を行つたものと認められない。

もつとも本件登記嘱託にあたつて嘱託庁たる東京地方裁判所が原告に本件嘱託書を渡して本件登記所に持参せしめたこと及び原告が登記官吏に対し本件登記に際し納付すべき登録税の課税標準として九十四万九千百円とするのが相当であると申出たところ、登記官吏は本件嘱託書に原告の申出た申告価格として記載し、東京地方裁判所の記載した価格の上に認定価格なる文字を書き加えた上、原告に対し嘱託書に記載してあつた課税標準価格で登録税を納付するよう原告に告げたことは当事者間に争がない。ところで、登記を嘱託する権限及び嘱託書に課税標準価格を記載して直接登記所に対し申告する権限は嘱託庁に属することは前記説示のとおりであつて、私人に右権限を委ねることは許されないと解せられるから、本件において嘱託書が原告に渡されたからといつて嘱託書の記載権限が原告に与えられたものと解すべきではなく、原告としては単に右嘱託書を登記所に持参する使者の地位にあつたに過ぎないと解するのが相当である。したがつて原告が登記所に対し嘱託書記載の課税標準価格に異議のあることを申出ても、その関係は課税標準価格の記載のある嘱託書が直接嘱託庁から登記所に送付され、これに対し原告が登記所に対し異議を申出たと同様であつて、登記所としては嘱託書の記載を標準に申告価格を認識すべきものであるから、原告の右申出は法律上何ら効力を有するものではないといわなければならない。けだし原告としては嘱託書記載の価格に不服であれば、嘱託書を交付された際嘱託庁に異議を申出でこれを訂正してもらう機会があつたのであり、その際何ら異議を申出ることなく右価格を記載した嘱託書を登記所に持参した以上右価格により課税標準の申告があつたものと取扱われてもやむをえないといわなければならないからである。

また登記官吏が原告申出の価格を申告価格として嘱託書に記入し、東京地方裁判所の記載した不動産価格の上部に認定価格と記入した点も、登記官吏としては嘱託書の記載それ自体については何ら訂正の権限を有しないことは明らかであるから、右登記官吏の行為によつても嘱託庁の不動産価格の記で載内容に何らの変更をきたすものとはいえない。したがつて本件は結局東京地方裁判所の記載した価格によつて申告が行われ、右申告に基き登記官吏は登録税の納付を受けたものというべきであつて、前記登記官吏の行為をもつて登録税法第十九条の六所定の認定告知処分ということはできない。

なお登録税法第十九条の六によれば登記所は登記申請者の申告した不動産価格が不相当なときは適正な価格を認定してこれを申請者に告知すべき義務があるのであるから、申告価格が低額に過ぎる場合ばかりでなく、高額に過ぎる場合においても、適正な価格を認定して申請者に告知すべき義務があるといわなければならない。しかしながら、登記官吏がこれを看過して何ら認定告知処分をするなく、申告価格に基き登録税の納付を受け登記を完了した場合は、右申告価格に基き、課税標準の価格及び納付義務の具体的内容は確定すると解すべきことは前記説示のとおりであり、本件において仮りに申告価格が高額であつたとしても、登記官吏により認定告知処分のなかつたことは前記認定のとおりであるから、本件の課税標準の価格は嘱託庁たる東京地方裁判所の申告価格により確定したものというべきであり、その間に登記官吏としては課税標準及び納税義務の具体的内容の確定について何ら積極的な処分はなかつたというべきである。

(四)  審査請求の対象となるべき処分

ところが登録税に関し登記官吏がなした処分については国税徴収法第三十一条の二但書所定の行政機関の長のなした処分として同法第三十一条の三に基き審査の請求をなしうると解すべきであるが、審査手続制度が行政処分に対する再審査を目的とするものであることを考えると右審査請求の対象となる行政機関の長の処分とは積極的な行政処分を指称し単なる不作為を含まないと解するのが相当である。

そうすると本件審査請求は結局その対象となるべき行政処分を欠いているといわなければならないからその請求は結局理由がないといわなければならない。もつとも被告は登記官吏の認定告知処分には誤りがないから審査の請求は理由がないとしてこれを棄却したものであることは成立につき争のない甲第二号証により明らかである。したがつて右審査決定に附記された理由には誤りがあつたといわなければならないけれども、本件審査請求が理由がないという結論においては一致しており単に審査請求の理由のないことの説明(理由附け)において異つているに過ぎないのであるから結局被告が右請求を棄却したことは正当に帰し、被告の右処分は違法でないといわなければならない。

三、そうすると原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 越山安久)

〔別紙〕

第一、原告の申立

原告が被告に対し昭和三十一年二月二日申立てた審査請求について被告が原告に対し同年六月十二日附でなした棄却決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二、被告の申立

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、原告の主張

一、原告は別紙目録記載の建物(以下本件建物という)を抵当権実行による競売手続において価格五百九十八万円で競落し、競落許可決定確定後代価を支払つたので昭和三十一年一月三十一日東京地方裁判所は原告の取得した所有権の移転登記を東京法務局に嘱託したが、右嘱託は事実上原告が東京地方裁判所作成の競落許可決定謄本及び登録税の課税標準価格を競落価格と同額に記載してある所有権の移転登記嘱託書を東京法務局に持参してなされたものである。その際原告は登記官吏に対し本件登記に際し納付すべき登録税の課税標準価格としては本件建物を東京都において固定資産税の課税標準として評価した価格金九十四万九千百円とするのが相当であり競落価格と同額とすることは承服できないと申出たところ、登記官吏は登記嘱託書に原告の申出た価格を申告価格として記入し、裁判所の記載した課税標準価格の上部に認定価格なる文字を書き加えた上原告に対し嘱託書に記載してある課税標準価格によつて登録税を納付するように告げた。

二、そこで原告はすみやかに登記を受ける必要上右価格に応ずる登録税二十九万九千五百円を納付して所有権移転登記を受けたのであるが、その後同年二月二日右処分を不服として被告に対し審査請求をしたところ被告は同年六月十二日附で右請求を棄却して同月十三日原告に通知した。

三、しかしながら被告の右処分は次の理由により違法である。

(一) 本件登記は東京地方裁判所による嘱託登記であるが、元来登録税法第十九条の六にいう登記申請者とは嘱託登記の場合であつても嘱託官署をいうものではなく登記権利者をいうものと解すべきである。ところで本件においては登記権利者である原告が申出た課税標準価格に対し登記官吏はこれと異る課税標準価格を認定し、これによつて登録税を納付するよう原告に告げたのであるから前記第一項記載の登記官吏の行為は登録税法第十九条の六にいう課税標準の認定告知処分というべきである。

しかも登記官吏の右認定告知処分は本件不動産の価格を過大に評価したもので違法であり、右違法な処分を維持して原告の審査請求を棄却した被告の処分も違法である。

(二) 仮りに本件登記の申請者が嘱託官庁である東京地方裁判所であり、右主張が理由がないとしても、登記官使は課税標準価格を不相当と認めたときは相当な価格を認定してこれを申請者に告知すべき義務があるところ本件において東京地方裁判所の申告した課税標準価格は不相当に高額であるので原告からもその旨を申告し登記官吏もそのことを承知しながら適正な価格を認定して告知せず右不相当な課税標準価格を是認確定せしめ原告をしてこれに相当する登録税を納付せしめたのであるから右登記官吏の処分は違法である。しかるに右処分を適法として原告の審査請求を棄却した被告の処分は違法である。

四、よつて原告は被告のなした右処分の取消を求めるため本訴に及んだ。

第四、被告の主張

一、原告の主張のうち

第一、第二項は認める。

第三項の(一)、(二)は争う。

二(一) 登録税法第十九条の六所定の抗告訴訟の対象となる登記官吏の課税標準価格認定処分は、登記が当事者の申請による場合は申請者の申告した課税標準価格が不相当であるとき、登記が裁判所その他の官署からの嘱託による場合はその通知にかかる課税標準価格が不相当であるときに登記官吏がこれと異る適正な価格の認定を行い、これを登記申請者或いは登記嘱託官署に告知することにより成立する行政処分であるが、本件所有権移記登記は抵当権実行による競売手続における競落を原因とする東京地方裁判所の登記嘱託によるものでその嘱託書記載の課税標準価格が競落価格と同額であつたので東京法務局登記官吏は右嘱託書記載の価格にしたがい原告に登録税を納付せしめたものでその間抗告訴訟の対象となるべき登記官吏の課税標準価格の認定処分は存在せず、したがつて被告に対する審査請求の対象となる行政処分が存在しないのであるから被告が原告の審査請求を棄却しても何等違法の問題を生ずる余地がない。

もつとも右登記官吏において原告が持参した登記嘱託書に原告の主張する価格を記入し、裁判所の記載した課税標準価格の主部に認定価格なる文字を書き加えた事実はあり、登記を登記庁が行うのに、登録税を納むべき者は嘱託庁以外の競落人等であることからして、登記の嘱託と登録税法の建前とする申告納税主義との関係をいかに解すべきかの疑問がある。もとより制度の建て方として登記の嘱託と登録税関係を全く切り離し登記嘱託とは別個に登録税を納むべき者から直接に徴税機関に申告するようにすることも可能ではあるが、現行制度はこのような建前をもつていない。このことは登記嘱託書に登録税額および課税標準価格を記載すべきものとされており、また登録税法施行規則第三条が登録税を納むべき者は嘱託庁に相当の印紙又は現金の領収証を提出し、嘱託庁にその印紙を貼用し又はその証書を添付して登記所に送付すべきものとしていることから疑をいれないところである。これはいわば登録税を納むべき者は嘱託庁を中間において間接に徴税機関と関係をもつに過ぎない立場におかれていることを意味するのであつて、したがつて、登録税を納むべき者は嘱託庁を介せずに直接に申告する権限を有するものでなく、また登記官吏が嘱託書による申告価格を不相当とした場合の認定価格の告知も嘱託庁に対してなさるべく、この告知を受けた嘱託庁から登録税を納むべき者に更に通知されることとなるわけである。そして他方嘱託庁としては申告納税主義の建前上嘱託書に記載する登録税額および課税標準価格は競落人の意見に基いて記載すべきであることは嘱託庁が課税機関でないことから明らかである。もつとも競落価格は一般に時価と認められる場合が多いので、嘱託庁が競落人の意見を推測して、同価格を課税標準価格として記載することは別段不当な取扱ではなく、もしその際に競落人等登録税を納むべき者において異議があるならば直に嘱託庁に申出て、これが訂正変更を求めれば足りるわけであつて、嘱託庁としてはこれを拒むべきではないのである(なお、嘱託登記にあつては、嘱託庁はあらかじめ競落人等登録税を納むべき者から登録税相当の印紙等の提出を求めるのであるから右の申出の機会を奪われることはない)。

かような次第であるから嘱託庁において作成した登記嘱託書の記載については登録税額及び課税標準価格についても他の記載と同様に、嘱託庁以外の者が任意に訂正変更できるものではなく、それはたとえ嘱託庁から持参を頼まれた登録税を納むべき者であつてもこのことに何ら変りがあるはずのものではない。したがつてまた登記官吏としても登録税を納むべき者からの申出があつたからといつて嘱託書における記載を訂正変更したり、あるいは嘱託書の記載と異る申出に基いて嘱託書の内容を修正して取扱うべきでないことは当然といわなければならない。けだし、前述のように登録税を納むべき者においても登録税につき直接に申告することはできず嘱託庁を介してのみ許されるものだからである。したがつて登記官吏としてはあくまで登記嘱託書に記載されたところにしたがつて所定の要件を審査し、同書記載の課税標準価格が相当であるなら登録税の賦課徴収に関する何らの処分を行うことなく直に登記を了すれば足り、もし右価格が不相当ならば嘱託庁に認定価格を告知すればよい。それ以外に登記官吏はなすべき義務もなければ権限もない(本件において、登記官吏が原告の申出た価格を申告価格として記入し、裁判所の記載した課税標準価格の上部に認定価格なる文字を書き加えたのは、当該登記官吏が、そのような権限があつて行つたものではなく、原告の申入にしたがつて事実上記載したまでであつてそれ以上の法律的意味があるわけではない)。

そして本件においては嘱託庁たる裁判所において記載した登記嘱託書の登録税額に相当する額を原告において提出し、しかもその使者としてこの嘱託書を登記所に持参しているのであるから、本件嘱託書に記載された登録税額及び課税標準価格は原告の意思に反したものと認める余地はない。けだしその間において原告は嘱託書の記載を変更してもらうべく裁判所に申し出る機会があつたにもかかわらず、そのままこれを登記所に持参したのであり、また嘱託書登載の登録税額に相当するものを提出しているのであるから原告の意思に基くものと認められてもやむをえないことであるからである。このことは、たとい嘱託書における登録税および課税標準価格の記載について原告が内心不満をもち、これを登記所に表明したからといつてこれにより影響をうけるものではない。

原告としては登録税に関する異議を表明するには嘱託書を通じてのみ可能であることは前述のとおりであるにもかかわらず、これを修正してもらわずにそのまま登記所に提出している以上、その内心の意思がどうであつたかということとは本来関係のないことであるし、また登記所に嘱託書の記載と異る申出をしたからといつてそのことは何ら法的意味をもちうるものではない。そして嘱託書の登録税に関する記載が原告の意思に基くものと認むべきことは前記のような原告の行態に徴し明らかなことといわなければならないのである。

故に本件は、登記嘱託書に記載された登録税額および課税標準価格こそが、登記官吏に対する納税申告額とみるべきであり、原告が右申告にかかる価額について登録税を納付し、登記官吏がこれを受領して登記を了したものである以上、その間に課税賦課徴収に関し何らの行政処分も行われていないものというべきである。

(二) また原告の予備的主張のように本件課税標準価格が不相当に高額であり、そのようなときには登記官吏が適正たる価格を認定告知しなければならない義務があるとしても登記官吏がそのような認定告知を行わなかつたことは単なる不作為にすぎないもので申告にかかる課税標準価格を積極的に是認確定せしめたものではなく、また登録税の納付をうけることは私法上の弁済の受領と異るところはないから、これらの登記官吏の行為が抗告訴訟の対象となるべき行政処分とは到底考えられない。すなわち、

不動産の登記申請においては、同一の書面によつて行われてはいるが、登記の申請と登録税の申告との二つの行為が存し、これに対する登記官吏の行為としても、不動産登記法所定の登記法上のものと登録税法により附与された税法上のものとが存するのである。したがつて登記官吏の登録税に関する権限は登録税法に定められたところに限定されており、これに規定のない登記官吏の登録税法上の処分なるものは存しないのである。しかるところ登録税法は、申告納税の建前を採り、収税官吏たる登記官吏は申告にかかる課税標準価格を不相当と認めれば適正なる価格を認定して、これに相当する登録税の納付義務を発生せしめることのできる規定があるが、この規定以外申告にかかる課税標準価格を確定せしめる税法上の措置について何らの規定もないのであるから、登録税の納付義務は登記官吏に対する課税標準価格の申告により、申告された価格に相当する税額について発生し、その納付(登記申請書に貼用された収入印紙を登記官吏が受領し或は現金にて日本銀行に納付される)によつて申告にかかる税額の納付義務は消滅するのであるが、もし登記官吏においてその申告にかかる課税標準価格が不相当であると認めれば適正なる価格を認定告知することにより、これによつて増額された課税標準価格の差額に相当する登録税の納付義務を生ぜしめることができるのである。しかしながら登録税法及不動産登記法上明らかなごとく登録税の納付義務はその納付がないときはその登記申請を却下するということにより(不動産登記法第四十九条九号)、間接的に強制しているものにすぎず、これを強制的に徴収しうる税法上の方法がなく、また、登記が完了した後には、その登録税の課税標準価格が不相当であることを発見してもこれを理由にその登記の職権抹消を行うことはできないのであるから、すでに登記がなされた以上、もはや課税標準価格の認定処分を行いえず、したがつてこのときにおいて申告による登録税の課税標準価格が反射的に確定するのである。

したがつて申告された課税標準価格に相当する税額の納付により登記が行われた場合には、課税標準価格は申告価格そのものであつて登記官吏がこれを決定したものとみるべきではなく、登記官吏は印紙を貼用された登記申告書の受理すなわち印紙を受領したことにより、また現金納付の場合には日本銀行の領収証を受領することにより、登録税の納付のあつたことを確認して登記を行うものにすぎず、登記されたことによつて、申告により自ら決定された課税標準価格が確定するにいたつたものといわざるをえない。また登録税の納付をうけることが私法上の弁済の受領と異らず、抗告訴訟の対象となるべき行政処分とは到底考えられないから、申告どおりの課税標準価格にしたがつて登録税の納付をうけたことには登録税の賦課徴収処分なる概念をさしはさむ余地は存しないのである。

したがつて被告に対する審査請求の対象となる行政処分が存在しないのであるから被告が原告の審査請求を棄却しても何ら違法の問題を生ずる余地がない。

(三) 仮りに前記登記官吏の行為が原告の申告にかかる課税標準価格を不相当として五百九十八万百円と認定したものであるとしても右認定金額は本件登記申請当時の不動産価格として適正な時価に相当するから、右認定には何ら違法はなく、したがつてこれを不当として申立てた本件審査請求を棄却した被告の審査決定もまた適法なものといわなければならない。

第五、被告の主張に対する原告の反駁

一、本件の場合のように裁判所が登記嘱託書を登記権利者に渡し登記所に持参させることは裁判所が課税標準の申告を登記権利者に一任した趣旨である。したがつて東京地方裁判所によつて本件登記嘱託書に記載された課税標準の価格は単に慣習上裁判所が記載したものであつて不動産登記法施行細則にいう課税標準の記載と異り課税標準の申告としての効力を有しないものである。

二、また被告の審査決定の理由によれば被告は東京法務局登記官吏が告知処分を行つたことを認めた上右告知処分には誤りがないとして原告の審査請求を棄却したものである。したがつて本訴において被告が主張するように右登記官吏が告知処分を行つていないというのであれば被告はその主張自体において本件審査決定が理由のないことを自認したことに帰し被告の本件処分は違法である。

目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例